2023年4月30日日曜日

The Light and the Dark

『光と闇』


「そうだよ、子供たち。このタムリエルの地が ‘アリーナ ’と呼ばれているのは偶然ではないのだ」

老人は自らの重みを支える大きな岩の上で体の向きを変え、彼の灰色の長いローブをまっすぐにした。淀んだ目は焦点を失い、ハイロックの山々の太陽に温められた渓谷を見つめていた。一瞬、その目は春の新緑のかわりに古代の恐怖の幻影を見た。彼の老いた骨に寒気が走った。

「これは若く無垢な者たちにふさわしい話だろうか?」と、彼は自らに問うた。若人は教えを受けなければならない。だが、陽光の中で遊んでいるべき今このような時に、こんなことを学ばなければならないのだろうか? これは、城壁に囲まれた町の外で風が吹き荒れ、風雨や寒さに備えてドアや窓が閉ざされ、かんぬきまでかけられたような、そんな暗い冬の日のための物語なのだ......。

彼は二人の孫を愛おしく見つめた。亜麻色の髪の小さな男の子は、珍しく静かに座っているときでさえも、その目に悪戯心を踊らせている。その隣には彼の姉がいる。おとなしい女の子だ、と老人は思った。暗い炎のような髪と、少しとがった耳だけが、彼女に流れるエルフの血を示している。彼女の祖母にように、と老人は思った。戦いに明け暮れた老人に、イシラは安らぎと幸福を与えてくれたものだった。彼は無理やり思考を現在に戻した。

「すまないね、子供たち。物事を思い出していたんだ。年寄りはよくそうするんだよ、知っとるね」

「ジャガル・サルンと、皇帝と、エターナル・チャンピオンのお話をしてくれるの?」彼の孫がたずねた。「お気に入りの話なんだ!」

「いいや、子よ。だが彼らもある意味では、その一部だったのだよ。イリクやモレリン、エドワード、レイモンと、他の多くの者たちと同じようにな。神々でさえもその一部なのだ。これは遥か大昔の話だ。司祭たちでさえ、わしのようには語らないだろう。彼らには彼らの解釈があり、恐れがある。わしは年を取りすぎたし、あまりに多くのものを見てきたから、もうほとんど恐れというものを抱くことはないが、人々が物事を忘れてしまうことだけは恐ろしい。忘れるというのは危険なことだ。だから、わしや他の幾らかの人らがこの物語を聴いて伝え、若い人たちに広めようとしているのだ。おまえ達はまだ全部を理解できる歳ではないが、わしは自分の終わりがそう遠くないことを感じている。だからとにかく覚えてもらわないといけない。ひょっとしたら数年か後にわしがまだ生きていれば、またこのことについて話せるだろう。そうでなければ、まあ、他の知っている人を捜して、自分の覚えたことを比べあわせにゃならないな」

「まるでもう死んじゃうみたいに話すのね、おじいちゃん」彼の孫娘が口を開いた。「そんなのありえない。おじいちゃんはずっと生き続けるの!」

老人は微笑んだ。「残念だが、そうではない。だが、あともう少し、この話をするのに十分な時間くらいは残っているだろうよ」

子供たちは、老人がすぐには始められないことを知っていたので、大きな樫の木の枝に腰を下ろした。老人は前屈みになり、このように話し始めた。

「はるか遠い昔、人がまだ一人もいなかった頃、神々さえもなかった頃、タムリエルは二つの……ものによって、戦いの場として選ばれた。彼らにふさわしい名前を見つけるのは難しい。わしはそれらを《光》と《闇》と呼ぶ。他の者は別の名前を使う。善と悪、鳥と蛇、秩序と混沌。これらの名前はどれも本当には当てはまらない。それらが正反対の位置にあり、とにかく相反するものであるということがわかれば十分だ。わしらが知っている言葉の上では、どちらも善や悪とは言えん。それらは実際には生きていないので、不滅だが、確かに存在はする。神々と、その敵であるデイドラたちでさえ、それらの永遠の対立の淡い反射に過ぎないのだ。それらの争いは周囲を歪めるエネルギーを生み出し、そのエネルギーはあまりにも強すぎて、流れの中の渦のように、生命が現れることがあるのだ」

「悪魔やトロールはその闇から来るの、おじいちゃん?」

「正確にはそうではない、子よ。わしらが知っている邪悪なアンデッドやオブリビオンに住む悪魔は、《闇》と結びつきやすい。彼らの性質はよりそれに近いのだ。人間やタムリエルの民は、誤解されているダークエルフでさえも、より《光》に結びついている。わしらの中の悪は必ずしも《闇》とは限らない。だが、中にはそういう者もいて、そういう奴は本当に危険なのだ。ジャガル・サルンはほぼ完全に《闇》に属していた。それゆえ彼は怪物のように残忍だったのだよ。黒魔術師だったからというわけではない。いくらかはそれも関係していたかも知れないが」

「彼の魔法はその闇から来たの、おじいちゃん?」魔法と聞いて少女が興味を持った。彼女の中に流れる血がその片鱗を見せ始めたのだ、と老人は思った。

「いいや、魔法の力は二つの存在の間に渦巻いているエネルギーから直接生まれてくる。このエネルギーに性格はなく、すべてが混ざり合っている。黒魔術の問題は、その効果よりもむしろ意図にあるのだよ。例えば魔術師ギルドは、危害を加えようとしてくる生物に向けて火の玉を放つのは黒魔術ではないと言う。だがその一方で、同じ呪文を平和を求める者に向ければそれは黒魔術であると言うだろう。この点では、彼らの言うとおりなのだ。火のデイドラを破壊すれば、《光》はほんの少し強まり、《闇》はほんの少し弱くなる。同じように、ユニコーンを傷つければ《闇〉を強めることになる」

「神々はどうなの? 彼らは《光》から来るの?」少年の目は生き生きとしていたが、不安を帯びてもいた。彼はタムリエルの神々と女神、そして彼らに仕える英雄たちの物語を愛していた。

老人は微笑んだ。「最古の物語のいくつかが真実ならば、神々は変わった起源を持っているのだよ。この世界の最古の住人たち──彼らがどのような種族であったかは誰にもわからない──は、彼らが千年にもわたって信じてきた神話の体系を持っていたのだ。もしかすると、もしかするとだが、エト・アダの人々はあまりにも長く、そして良くそれを信じていたので、その信仰がタムリエルを取り巻くエネルギーを引き出して神々を誕生させたのかもしれない。もしそうだとするならば、《光》と《闇》の対立がエネルギーを提供しエト・アダ人が構造を提供したのが、タムリエルの神々の起源ということになる。あまりに昔のことであり、当時から生きている者はもうほとんどいないから、本当のところは誰にもわからない。今では神々が独自の存在を持っている以上、それはもう問題ではないということだ。そうした神々はそのほとんどが《光》に属している。一部の例外もあるがな。言うなれば、一部の神々には少し曖昧なところがあるのだよ」

「どうして覚えていなくちゃいけないの、お爺ちゃん? 危険って、なんのこと? その光と闇がそんなに大きくて強いなら、わたしたちでなにかを変えることはできないかな? 試してみるべき? わたしたちは何のために戦うべきなの?」

「物事を批判的に観察する能力が育ってきたようだな、ソララ。いいことだぞ。答えは単純なことだ。我々のような単なる定命の人間にとって、それは大きすぎて手に負えない。光と闇は互角であり、おそらくその対立が終わることはないだろう。人間やエセリウスに属する存在は時々、その痕跡を感じとることができる。そこに危険が潜んでいるのだ。わしらの多くにとって「光」はより馴染みやすいものであり、ときにわしらを鼓舞して、わしらが善と呼ぶ行為に駆り立てるものだ。わしらのような生き物にとって、闇は……恐ろしい。その幻を見た者はしばしば狂い、そうでなければ死よりもひどいことになる。闇は我々にとって怪物のような虚無であり、魂をそこに吸い寄せ、捻じ曲げ、傷つけ、最後には壊し尽くしてしまう。わしらがそれについてわかるのは、まったく邪悪なものであるということだ。もしかすると、ここではない別の場所では違うのかも知れないが、この世界ではそうなのだ」

老人は考えをまとめるためにしばし口を閉ざし、今一度、春の新芽のような若々しい命を見つめた。「忘れてはならないのは、"闇 "は常に存在し、わしらの中の弱い心の持ち主に手招きしているということだ。その邪悪な魅力に取り憑かれた者がタムリエルを支配するようになれば、恐ろしいことが起こるかもしれない。わしらが美しいと思うもの、好ましいと思うものはすべて、愛そのものさえも、一掃されてしまうだろう。平和や希望はなくなってしまう。タムリエルにとって、それはもっとも恐ろしい災厄となるだろう。ジャガルの統治の間にわしが目にしたものは、わしを殺しかけ、あと少しのところで心を壊すところだった。奴が滅んだとき、わしは最悪の事態は終わったと思ったが、そうではなかった。闇の勢力が再び進軍しておる。新たな英雄が立ち上がり、エターナル・チャンピオンと共に、奴らと戦わなければならない」

老人と子供たちはしばらくの間、黙ったまま座っていた。それからようやく、子供たちは祖父が立ち上がるのを手伝ってゆっくりと歩き出した。我が家と、団らんと、昼食に向かって。



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TESⅡ:Daggerfallゲーム内書籍『The Light and the Dark』の拙訳です。
TESの世界についての設定はTESⅢ以降少しずつ変わっているようなので現在の設定とは違う部分もありそうですが、こちらの書籍は比較的最近のSKYRIM CCのコンテンツで登場しているので没というわけではないはず。
ふたつの対立する大きな力同士の衝突で生まれる世界、可能性の世界、という要素は影の魔法の設定にも繋がってきそうです。(参考:『影の書』https://akaviri-tongue.blogspot.com/2023/06/scroll-of-shadow.html

原文:Lore:The Light and the Dark - The Unofficial Elder Scrolls Pages (UESP)(https://en.uesp.net/wiki/Lore:The_Light_and_the_Dark

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